日付は忘れた。冬だ。夕食後、リビングでテレビを観ているときだった。俊介はゲームボーイで遊んでいて、麻美はお絵描きをしていて、久美子はリンゴの皮を剥いていた。なんの変哲もない、あたりまえの夜だった。酔っていたわけではないし、昼間に仕事のことで厭な思いをしたわけでもなかった。どちらかといえばむしろ、ささやかな幸せを噛みしめるほうが似つかわしいリビングルームの光景だった。(重松清『さなぎホテルにて』)